先日,当直業務をしていた時のことです.施設入所中で認知症のある90代女性が昨日から顔面蒼白で今朝嘔吐したとのことで受診されました.救急車ではなく,施設の車でやってきました.本人はあまり苦しそうではなく,「どこが辛いのですか?」と聞いてもハッキリとは答えてくれません.
食思不振もあり入院が必要なので一通りの検査をゆっくりと進めておりました.検査結果が出揃った段階で,心電図を見ると,心筋梗塞に特徴的なST上昇という所見が目立っていました.そして血液検査でも筋肉の酵素や心不全のマーカーなどが上がっていました.
かなり高い確率で心筋梗塞を発症していると考えられました.当院は小規模病院であり,休日の緊急カテーテル検査は行っていません.どうしようか悩みました.発症自体は24時間前くらいであり,血圧などは保たれておりました.今すぐに命に関わる状況ではなさそうですが,治療するならば早い方がいいことは間違いありません.
病院には長女さんが付き添って来院されていました.私は長女さんに「心筋梗塞が疑われます.このままカテーテル検査を行わなければいずれ心不全がひどくなり,死にいたる可能性が高いです.当院では緊急カテーテル検査は行えません.カテーテル検査・治療までご希望なら大病院へ転院を依頼します.」こうお伝えしましたが,「認知症もありますし,当院でお願いします.」と言われました.
「他に親族はいませんか?」私は聞きました.
「妹がいます.」彼女は答えました.是非今すぐに電話相談してみてほしいと依頼しました.
その結果「私たちには専門的なことはわかりませんが,とりあえず大病院で治療を受けてみたいと思います.」と返答がありました.もちろんカテーテル治療によりリスクについてもご説明し,理解がえら得たので,大病院へ電話相談し,転院搬送を快諾いただきました.
そこから先はどうなったのかわかりません.アグレッシブな治療を行わずに穏やかにお見取りとしてもいい症例であったという意見もあるかもしれません.大病院に転院搬送しても100%幸せな結果にならないことも考えれます.私にも正解はわかりません.最終的にはご家族が後悔しない選択肢が正解なような気がしています.ありのままに事実をお伝えし,家族とともに最善策を検討していくことが高齢者医療にとって大切なのだと思い,日々診療にあたっています.
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